アドリミナを振り返って:その10
2024年4月8日から13日まで行われた、日本の司教たちのアドリミナ聖座訪問の振り返り、その10回目です。あと残るのは木曜日と金曜日。(上の写真は、正面に見えるサンタ・マリア・マジョーレ聖堂に向かう道で)
繰り返しになりますが、アドリミナの義務は個々の司教にあり、それぞれが裁治権を与えられている地域(教区)について報告する義務は個々の司教にあります。そのため、司教たちは数か月前に(今回は昨年末12月)、それぞれの教区の報告書(前回のアドリミナ以降の統計や行事や課題)を福音宣教省のガイドラインに沿って聖座に提出しており、それは福音宣教省から各省庁に配布され、各省庁はすでに個々の教区の事情を把握していることを前提として、省庁訪問は行われます。省庁訪問は既述の通り、こちらは日本語で話し通訳を入れて行う形になりますので、例えば二時間あったとしても実質は45分程度です。ですから、その場で、個々の事情を説明して細かく話し合い、何かを決めるようなことはなく、どうしても省庁側の教示をいただく形になってしまいます。今回は、これも既述ですが、教皇様の指示もあり、できる限り地域教会の現状に対して省庁側が耳を傾けて、省庁側も一緒に解決の道を探るような形に変わりつつあり、今後、その方向で定着していくことが期待されます。もっとも事前にそのようなレクチャーがあったわけではないので、以前のようなアドリミナの省庁訪問を想定して出かけて行ったこちらとしては、準備が異なっているので、対応が十分でなかったっことも多かったと思います。いずれにしろ、アドリミナの報告は、それぞれの個別の司教様方がそれぞれのアドリミナについて責任を持って語るものであって、私の振り返りも、東京の大司教としての振り返りです。
さて訪問の四日目、4月11日木曜日は、朝8時半から福宣教省のもう一つの部署、すなわち以前の新福音化推進評議会であった、現在の世界宣教部門を訪問しました。こちらの事務所は、スペイン広場近くのプロパガンダ・フィデ宮殿ではなく、サンピエトロの近くにあります。
こちらの責任者は、リノ・フィッジケラ大司教様。ローマ教区の補佐司教からラテラン大学の院長や生命アカデミーの責任者を経て、2010年から新福音化推進評議会の議長、2022年6月から現在の福音宣教省世界宣教部門の責任者になられています。(上の写真、向かって右端がフィジケラ大司教)
この部署は、2025年の聖年、大阪万博、世界青年大会(WYD)などを担当しています。日本からは前田枢機卿様が、大阪万博への取り組みや計画、そして福音宣教省への協力を要請されました。
フィッジケラ大司教からは、すでにアドリミナ後にバチカンから記者発表されましたが、大阪万博のためにカラバッジョの絵をバチカン美術館から出展することや、そのほかの美術品も持っていく予定であること、さらにイタリア館内に設けられるバチカンのセクションは、そのテーマを「美は希望をもたらす」として、それに関するウェブサイトも現在準備中であることが告げられました。
また激しい世俗化が進み、宗教的な無関心が広まっている伝統的キリスト教国にあって、どのように福音を告知するかは同省一番の課題であり、同時にデジタル世界に生まれ育った若者たちにどのように福音を伝えるのか、またAIの普及する中で倫理的な問題、特に生命倫理についてどのように取り組むのかを重要な課題としているという旨のお話がありました。
さらに青年たちに向けてカテケージスを充実させる必要は、初聖体や堅信のためではなく、キリスト者としてのアイデンティティを確立し、共同体としての意識を確立するために、必要不可欠であること、そのためにもそれぞれの教区でカテキスタを養成することの重要を強調されました。
また2025年の聖年にかかわる様々な企画の説明もあり、とくにそれぞれの教区でも巡礼教会を設けることやゆるしの秘跡を提供することの大切さを強調され、それに伴い「いつくしみの特別聖年」の時に設けられた「いつくしみの宣教師」を日本の教会でも取り入れることを検討してはどうかという問いかけがありました。
その後、それぞれの教区から、福音宣教の現実について、情報交換となり、大阪の万博会場でのフィッジケラ大司教との再会を願いながら、訪問は終了しました。
この後、10時からは、すぐ近くにある列聖省の訪問です。
列聖省は、聖人や殉教者の認定をするための部署で、長官はマルチェロ・セメラロ枢機卿(上の写真の真ん中)。イタリアのアルバーノの司教と同時に教皇様の枢機卿会の秘書をしておられましたが、2020年から同省の長官になられています。日本の教会にとっても高山右近やペトロ岐部と187殉教者など、近年多くの福者の認定作業をしていただき、現在はその殉教者の列聖を進めていますので、頻繁にやり取りのある省庁の一つでもあります。
日本からは列聖委員会を担当する大塚司教様から、現在の列福列聖運動の進捗状況などについて報告がありました。福者ユスト高山右近、福者ペトロ岐部と187殉教者、日本205福者殉教者(これについては先日典礼秘跡省で内諾を受けたように、今後手続きを踏んでセバスチャン木村司祭と204殉教者に変更する)の列聖運動を進めていること、広島教区の津和野の証し人、チマッチ神父様、北原怜子さん、永井隆夫妻、などの列福運動が、それぞれの教区や修道会、グループによって進められていること、さらに元和の大殉教400年にあたり、各地でミサなど行事を行ったことが報告されました。
同省からは、伝統的な命をささげた殉教者に加えて、生涯のすべてをささげて福音を証しした人たちも殉教者として認める方向に進んでいること、そういった信仰の証人のリストを更新中であり、聖年にはそれに関する行事をローマ・コロセオで行いたい、また現代の殉教者、すなわち直接信仰を捨てることを強要されたのでなくても、愛と真理の証しの中でいのちを失った方々も、殉教者として十分に注目していきたい、といった旨のお話があり、また加えて、誰かを聖人にしたいので運動するというのは間違いで、聖人かどうかがその人物が天国に入った証明でもない。それは神が決めることであって、教会にとって重要なのは、その人物が多くの人の信仰生活の模範であるかどうかであるとの指摘もありました。その後、それぞれの教区などで取り組んでいる顕彰活動や列福列聖運動についての分かち合いとなりました。
列聖省での訪問を終了後、タクシーに分乗して、ローマ市内にある教皇庁未成年保護委員会に向かいました。この日の12時半から、同委員会のメンバーと意見交換となりました。
私自身は、国際カリタスの総裁として各国のカリタス関連の未成年者への加害問題への対応の関連で、前任の次官の司祭とは以前から連絡がありましたが、この3月に次官が交代となり、新しい次官にはこの日初めてお会いすることに。
2013年末に同委員会が設立されてから責任者はボストンのオマリー枢機卿様で、もちろんボストンにお住まいですから、今回の面談にはお出でになっていません。この3月15日に次官に任命されたばかりのルイス・マニュエル・アリ・エレラ司教様はコロンビアのボゴタの補佐司教を務めておられた方です。集まってくださった委員の方々は世界各地域から任命され来られた方々で、大多数が女性です。(委員の方々のプライバシーのため、写真はありません)
次官からは、教皇様の省庁改革によって現在のような常設委員会として設置されたこと、主な目的は、地域教会がこの課題に真摯に取り組むように助力すること、実際にケースがあった場合に教区や修道会から報告を受ける窓口となること、それを毎年、教皇様に報告することだとの説明がありました。
日本からはこれまでの事例についてすでに報告書を送っているので、まずわたしから対応する中での様々な課題について分かち合いました。特に強調させていただいたのは、教区司教と修道会上長の教会法上の立場による連携の難しさと、ほかの言語圏では共通で設けられている研修施設を日本単独でどのように設置できるかの課題です。
教区司教にとっては、教区司祭の問題を直接取り扱うことは当然として、修道会や宣教会の会員の問題に勝手に入り込むことはできません。結局、修道会や宣教会からの対応と報告を、司教は待つしかないのが現状です。教会の制度上、修道会と教区は並立する同等の立場であるためです。信徒の方々や外部の方々からは、同じカトリック教会なのだからどうして司教が直接取り扱わないのかという批判を頂戴しますが、今の教会の制度では、それはできません。そのため、教区司教は時に、対応の難しさに困惑することすらあります。
これについて同委員会からは、同じような意見が世界各国の司教から届いており、同委員会では現在、司教協議会とその国の修道会の上長協議会、そして同委員会との三者で事前に協定を結び、被害を受けた方の善益を一番に尊重して迅速に対応できるように制度を整えようとしているとの回答がありました。今後、日本でも、同委員会と連携と取りながら、教区司教と修道会上長協議会と同委員会の協定を結ぶように、内容を含め検討してほしいとの要望がありました。
また、被害者と加害者にどう対応するかの問題だけでなく、そもそも加害者が生まれない教会を生み出すことが重要で、そのための霊的、医療的、精神的ケアをどのような形で進めるのか検討するのも、同委員会の重要な役割であるとの説明があり、そのためにも、司祭養成と司祭の生涯養成のなかで、セクシャリティの問題を含め、自らを知るための養成を充実させるなど、抜本的な見直しが、世界中で不可欠であるとの指摘も委員の方からありました。
なお、聖職者による性的加害に対応する部署は、未成年が被害者の場合はこの委員会が窓口ですが、それ以外の方が被害者の場合は、教理省が窓口になっており、この窓口が二つあってその二つの性格が異なっているのも、地方の司教からはわかりにくいことであることも、同委員会には伝えました。
未成年者保護委員会の訪問を終え、宿舎に戻り昼食後、午後3時に、大塚司教様、中村大司教様、そして私と、三つの管区を代表して、ローマ市内にある使徒座署名院(最高裁判所)に向かいました。同時間に、前田枢機卿様はアンドレア司教様を伴って、バチカン美術館に向かい、大阪万博への協力を依頼しに行かれました。(下の写真は、使徒座署名院の玄関に立つ大塚司教様)
使徒座署名院では、大塚司教様から、日本の三教会管区に設置されている教会裁判所での活動について報告がなされ、これに対して、特に結婚問題についての裁判がほとんどである日本の教会に、法的な対応のアドバイスをいただきました。また、裁判にかかわる有資格者も高齢化しているので、司祭や修道者でなくとも、信徒の男性でも女性でも、基本的な神学の学位を持っている人を教会法の資格取得のために留学させるようにとの強い勧めをいただきました。確かに今回のアドリミナの省庁訪問でも、女性信徒の役職者の中には、教会法の修士号や博士号を取得されている方もおられ、さらにいくつかの国の教区裁判所では、男女の信徒で教会法有資格者が裁判の実務にあたっている例もあることから、日本の教会でも差し迫った検討課題です。
これで木曜日の予定は終わり、明日金曜は、いよいよ教皇様との謁見です。
(この項、続きます。「アドリミナを振り返って:その11」へ)
| 固定リンク | 5
「アドリミナ」カテゴリの記事
- アドリミナを振り返って:その12(2024.05.30)
- アドリミナを振り返って:その11(2024.05.30)
- アドリミナを振り返って:その10(2024.05.29)
- アドリミナを振り返って:その9(2024.05.28)
- アドリミナを振り返って:その8(2024.05.28)