教皇選挙を終えて
多くの皆様のお祈りを頂いた教皇選挙が終わりました。前記事でも所感を記しましたが、これまで12年間にわたり導いてくださった教皇フランシスコに別れを告げ、その直後に今度は新しい牧者としてレオ14世を選出した枢機卿団の一員として関わらせて頂いたのは、多分、生涯に一度のことであろうと思います。このような場に立ち会うことを許してくださった、いのちの与え主である神様に、感謝しかありません。また教皇フランシスコの永遠の安息のため、そして新しい教皇の誕生のため、世界の多くの方が祈りを捧げてくださいました。教皇選挙に参加した133名の枢機卿は、皆、その祈りの力を感じながら、一連の行事に臨みました。皆様に感謝いたします。
さて、教皇選挙の具体的な内容については、書き記すことはできません。システィーナ聖堂(礼拝堂)に枢機卿団が選挙のために入堂する映像が、バチカン放送がそこまでは撮影しましたので、それがいろいろなメディアに上がっていますが、最初に、全員が、一人一人ラテン語で祈りを唱えて誓いを立てます。その中で、選挙に関連した内容や起こったことについて、一切口外しないという誓いを立てます。そのため、内容を具体的にお話しすることはできませんし、写真もありません。
映像によく出てくる、(例えばこのリンク先の日テレ)手を置いて一人一人が誓う部分は「わたしは、それらを約束し、誓います。いま手を置いている福音と神が助けてくださいますように」と言っているだけで、その前にある様々なことを誓う具体的な内容は、首席枢機卿(代理のパロリン枢機卿)が代表してラテン語で唱えています。映像に写っている部分はまだ秘密とされていない部分で、その後に、教皇儀典室長のラヴェリ大司教様が「エクストラ・オムネス」と宣言して、投票権者以外を聖堂から出して扉を閉めるところから、新しい教皇が、「投票結果を受諾します」と首席枢機卿に応えるまでが、教皇選挙の秘密部分です。ですから、この間はカメラも外へ出されますので、映像もありません。
同時に、大勢の枢機卿がいますから、なんとなく雰囲気的な情報が様々なメディアに漏れ伝わるのでしょう。イタリアメディアを中心に、世界各国のメディアでは、様々な情報が飛び交っています。なかには正確に、誰が何票得たのに、それがそのあとで大きく変わったのは、これこれこういう裏事情があったのだと、かなり断定的に書いているメディアがありましたが、わたしもそれを見ましたけれど、わたしが目の当たりにした事実とはかけ離れた数字だったので、何らかのストーリーを作るための推測の結果なのだろうと思います。
事実は一つしかありません。システィーナ聖堂に集まった133名の枢機卿団は、祈りのうちに投票を繰り返し、主イエス御自身がすでに選ばれているに違いないペトロの後継者を見いだすために投票を続け、プレボスト枢機卿が3分の2以上の票を得て、教皇に選出された。それだけです。
枢機卿団は、教皇フランシスコが、第二バチカン公会議から始まって、歴代の教皇が進めてきた教会の改革を、さらに完遂しようとされた方向性を継続し、同時に明確な教えを持って教会の一致を確立する牧者を見いだすことに努めました。それは類い希な才能と霊性を持った教皇フランシスコを引き継ぐ第二のフランシスコの誕生ではなくて、それは不可能なので、主イエスが託された務めを忠実に果たす使徒ペトロの後継者を見いだすことに努めました。その結果です。
「教皇選挙」という映画があります。わたしも、3月にカリタスの所用でローマに来たときに、ANAの飛行機の中で見ました。ストーリーはちょっと荒唐無稽だなと思いますし、明らかに現実的ではないフィクションですし、実際にバチカンで撮影しているのでもないので、いろいろと実際とは異なるところがありますが、よくできた映像だと思います。映画の公開を通じて、日本でも、本当の教皇選挙に注目して頂けた部分も多くあろうと思います。
とはいえ、映画にあるように、あからさまな票のとりまとめとか、「これは戦争だ」と意気込んでみたり、いろいろと画策したり、皆の面前で、おまえはもうだめだみたいな指摘をしたりという、生臭い話は、残念ながらフィクションです。ああいったことは全く起こらず、食事の席では、互いに知らない人が多いので、自分の国の教会について互いに教え合ったり、非常に和気あいあいとしていました。この下の写真は、サンタマルタの廊下ですが、楽しくお話をして仲良しになった、バーク枢機卿(米国出身)の後ろ姿です。もちろんこの写真の撮影は、教皇選挙が終わって、スマホが警備から戻ってきてからのことです。
サンタマルタに皆が到着したのは、選挙の前日です。そこで生活しているバチカンで働く聖職者はすでに他の施設に一時避難して、部屋をすべて教皇選挙投票者のために空けています。特設の入口には、空港と同じ保安検査の台が設置され、携帯やパソコンを始め、充電器など、すべての電子製品を没収され、特別な密封封筒に入れられます。皆、空港の検査以上だと驚いておいましたが、あれほど時間をかけて完全に検査されるとは思いませんでした。電子的な腕時計をしていた枢機卿も多く、すべて取り上げでしたので、部屋には時計がありませんから、多くの枢機卿から時間が分からないとの声が上がり、サンタマルタの職員の方が、慌てて電池式の目覚まし時計を大量にそろえたほどです。
部屋は、下の写真のように、窓ガラスには布が張られ、外のブラインドは開けないように、バチカン警察の封印がされていました。わたし達の泊まった部屋も、その前日までにバチカン警察のセキュリティー検査が行われ、わたしたちが入室する直前まで、扉が封印されていました。
すでにスマホは持っていないし、パソコンもないのですが、サンタマルタの全館に特別な装置が設置してあって、携帯の電波は一切届かず、館内電話も外線に繋がりません。こうなると、やることがなくなります。厳格な黙想会にいるようなものです。本を読むか、祈りをするかしかありません。サンタマルタには一階に、教皇フランシスコが毎日ミサを捧げていた聖堂がありますが、今回はいつ足を運んでも、何名もの枢機卿さんたちが祈っている姿がありました。スマホやパソコン禁止も、もちろん外部からの情報で左右されないようにという独立性の理由もありますが、現代社会ではそれ以上に、祈る時間をしっかりと持つことにも繋がると実感しました。
バチカンニュースの映像や、日本では日テレのまとめ映像にもシスティーナ聖堂での選挙準備の様子が公開されていますが、各自の指定席の前に、名簿一覧などと併せて、緑色の結構分厚い本が全員の席に置かれています。一度映像をお探しください。この本は、教皇選挙の具体的なやり方や祈りの言葉や所作などをすべて記したもので、左側のページがイタリア語、右側のページがラテン語で、実際にはラテン語ですべて唱えますが、具体的な指示は、イタリア語を読んで行われていました。とにかくこの選挙は長い伝統の上に成り立つ儀式ですから、しっかりと定められたとおりにしないと無効になりますので、皆一生懸命、これを読み込みました。
またシスティーナ聖堂は、数年前に日本の企業のおかげで修復が進みきれいになっていますが、皆が投票する間は、ただひたすら待つだけですので、すべての素晴らしい芸術を、ゆっくりと眺める贅沢な時間を頂きました。
教皇選挙がよりよく行われるようにお祈りくださった多くの方には感謝ですが、それ以上に、投票権者の枢機卿団を外界から隔離して生活を維持させ、不測の事態に備えて待機し、食事を用意し、厳重な警備をし、また諸々の行事を行ってくださるために、枢機卿たちと同じように、バチカンに泊まり込みで働き支えてくださったバチカンの職員の方々には、感謝しかありません。選挙が二日で終わったとき、教会のみなさんもお喜びになられたことでしょうし、枢機卿たちも喜びましたが、一番喜ばれたのは、家庭に戻ることができる職員の方々であったと思います。職員の方々は、あの晩、投票を終えてサンタマルタに戻ってきた枢機卿たちを、玄関ホールに皆で列を作り、拍手で迎えてくださいました。わたしたちの方こそ、職員の方々に感謝しなくてはなりません。
というわけで、お話しできる内容はこれくらいです。教皇レオ14世が、これからどのような言葉を語るのか、どのような行いをするのか、どのような方向へ歩もうとするのか、期待のうちに待ちたいと思います。教皇様のために祈り続けましょう。
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